「 憂 鬱 」


蒼ざめた夜 どうする事も出来ないような『憂鬱』が


飢えた狼の如く牙を剥き出しにして 突然ワタシの心に襲いかかってきた



「何故・・・?」 ワタシにもわからないのだ・・・

この胸糞悪い理由
(わけ)を 自分なりに探しては見たものの

考えるば考える程 理由
(わけ)がわからなくなってくるのだ

まるで魚の骨が 喉に引っ掛かった時のように気持ちが悪い

『憂鬱』という名の棘が 決して自分では抜くことが出来ない

心のどこかに奥深く 突き刺さっているような気がするのだ


ワタシは疲れと共に服を脱ぎ捨て 

棚の上に置いている四十三パーセントのアルコールを

底冷えしてる心と躰に流し込み

部屋の床にへばりつくように寝転んだ


ラックの上の置時計が まるでメトロノームのように

単調な音を響かせながら ゆっくりとワタシの命を削りとってゆく


『幻覚!』 『幻視!』 『幻聴!』

頭の中までアルコールが回り始め 意識が朦朧とする中

退廃的な感情がワタシの心を殺略し始めた

あぁ 全てのものが消えてしまえばいい・・・

全ての人が滅びてしまえばいい・・・

全てを『無』に・・・ 全てを『無』に・・・




そんなワタシの倦怠しきった心には 

悲しみを産み出す余裕など どこにもなかった

それどころか 余りの理由
(わけ)のわからない『憂鬱』に

悲しみを通り越し 狂ったように部屋の中で這いずり回り笑い転げた


もう涙なんて出やしない・・・ 


涙などなんの心の糧にもなりゃしない・・・


涙なんて糞喰らえだ・・・ 


そうだ 大糞喰らえだ!


眼から哀れみの汁を垂らしながら

「ワタシはこんなにも悲しい思いをしているのです・・・

            だから一緒にワタシの悲しみを知ってください・・・」

そんな押し付けがましい悲しみなんて 吐き気がする程うんざりだ

そんな悲しみなんて踏み潰してしまえ!

我が胸に蔓延(はびこ)る偽善の心と共に・・・!




酔いのせいか 部屋の空気が重く煮詰まっていた

ワタシは床から起き上がり ふらつきながら窓を開けてみた

静まりかえった街の響きと共に 冷たい夜風がワタシの鼻を突く


蒼ざめた夜空は

ワタシの胸に抱えている『憂鬱』という名の心模様・・・


汚れた空に広がる

見えない星屑はワタシの夢の破片・・・


そして 嘲笑うかのように

冷たく銀色に輝くメダルのような月だけが

姿なきワタシの『憂鬱』の理由
(わ
を知っているようであった・・・


1993.?.?


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